熱海といえば、『泉都』のイメージばかりが先に立ちますが、伝統に培われた手作りの工芸品「熱海楠細工」があります。
本格的な楠細工の発祥は、天保8年(1837)頃、熱海不動沢で楠の巨木が倒れ、地元の村人がその木目の美しさから、楠を材料に自分たちの日用品を作ったのが始まりといわれています。
当地が温泉客の多い土地柄だったことから、楠で作った膳や盆、椀、小箱などを湯治客相手に販売したところ、ことのほか好評を得ました。製品は温泉客の人気を集めながら箪笥のような大物から煙草盆のような小物まで注文に応じて幅広く作られ、明治、大正、昭和へと熱海の代表的伝統工芸品として今に息づいています。
しかし、昭和20年以降、観光資源の急激な変化と、プラスチックなどの新材料を素材にする競合製品の追い上げで、小物類の受注量は大幅に減り、ひととき34もあった事業所も現在は3事業所を残すのみとなり、その規模も極めて小さいものとなっています。